こういう音楽を良質と呼ぶのだ、と僕は思います。
セッション的な緊張感、スペース、ストイックなヴォイスアディション、音状各各のクオリティをここまでキープして中庸感に陥らなかった作者のバランス感覚は脅威的です。高次な意視力と審美眼の賜物と脱帽します。
僕は論理性と正反対の人間ですのでディテールに関して云々する事は控えたいと思いますが，この音楽を貫いている美意識には一際絶賛の拍手を送りたいと思う次第です。

フランス暗黒映画やロシアスパイ映画を想起させるメロディーラインに風を切り越境するリズム、そして彼独自のパースペクティブサウンド。
シンプルな構成でありながら、いささかもスピ−ド感を失わないのは音楽を空間的な視点から見事な構図で捉えているからである。
音楽は不安定に軋み、その歪みが音楽全体を包み込む。多田牧男は静謐に都市の軋みを演奏し続けてきたのだ。